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第4話 秘書官の仕事

Author: フクロウ
last update Last Updated: 2025-10-14 19:00:02

「くっそ、こいつ!」

 床にたおれた大男はガバっと起き上がると、落とした斧を拾った。片手斧だ。威力は低いが小回りがきく。

 私の記憶ではたしか、「秘書官かなにか知らねぇが!」とかなんとか言って、片手斧を上段から力任せに振り下ろしてきたはずだ。

「秘書官かなにか知らねぇが! くらいやがれ!」

 予想通りの台詞とともに振り下ろしてきた斧の刃に、剣の刃をかみ合わせる。滑らせるように斧の一撃をさけ、隙をついて大男の後ろへと回る。そして、頭を思い切り蹴った。

 男は気を失ったまま後ろへと倒れていく。これでこの男はノックダウンだ。

 残り、牢屋で身構えているのは──たしか3人。賊の加勢は来ない。そして、部屋の隅に固められていた2人の看守は縄で縛りつけられているだけで意識はある。

 記憶のことは気にかかるけど、やっぱり賊をつかまえるのが先決。集中しないと。

「くそっ! あいつ、小柄のくせに強いぞ! でも、2人掛かりでやればなんとか!」

 細身の2人の男が剣を上段に構えたまま走り寄ってくる。

 前も聞いたけど、その言葉は気に入らないな。小柄のくせに強いんじゃない。小柄だから強いんだ。どれだけ修練を積んだかわからないだろう。

 私は、一度身体を深く沈ませた。目の前に2本の剣が重なる。そのタイミングで剣を振り上げる。下から軽く小剣で叩けば、剣は持ち主の手を離れて床へと突き刺さった。

 そして、問題は次──。

 体が熱くなるのを感じて、上空へと跳び上がる。顔の横を子猫ほどの大きさの小さな火球が通り過ぎていった。

 やっぱり……いるんだよね。紋章士《もんしょうし》のフリーダが。

 牢屋の奥、目深にフードを被った人物がフリーダだ。賊の一員だから、いかにも凶悪そうな雰囲気が漂っているけど、フードを脱げばただの小さな女の子。本人に「小さな」と言ってしまったら、怒られるんだけどね。

 つい笑みがこぼれてしまう。気を引き締めると、剣を持ち直し、炎を避けるために空中で体を回転させた。

「ちょっと! なんなのよ! 私の魔法が当たらない……!!」

 慌てるフリーダの右手の甲にある〈燃ゆる火の紋章〉の刻印を横目に、目の前に降りた。

 斬られる、と思っているのか反応は鈍かった。私は、その隙にすぐさまフードを切り刻む。

 あどけなさの残る赤髪の少女の顔があらわになる。14、5──いや下手したら12歳くらいに見える少女は、驚いたその顔のまま硬直していた。

 さて、と。フリーダのことはひとまず置いといて、敵の体勢が整う前に、看守の縄を切った。

 すぐさま看守長が立ち上がると、怒りに満ち満ちた声を上げる。 

「全員、引っ捕らえろ!」

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